
フリーマガジン - エンライトメント
MACの普及によって印刷物の制作がカンタンに安くできるようになり、個人やグループ制作によるフリーペーパーが、たくさんでまわるようになった。その多くが個人の作品発表ツールとして無料配布されている。
一体何故?「自己満足」などと語られる事の多いフリーペーパーだが本当にそうなのだろうか?フリーペーパー「TRACK」を発行する、エンライトメントのヒロ杉山氏をはじめ現在活躍中の制作者にインタビューする、f-dex第一回の特集。フリーペーパーの「気持ち」がちょっとだけ見えてくる・・・?

- f-dex(以下F):お忙しいところ本日はよろしくお願いします。最初にエンライトメントについてお伺いしたいのですが「エンライトメント」という名前の由来を教えてください。
- ヒロ杉山(以下H):MACを使うようになってからスタッフが増えたので、この名前を使うようにしています。辞書をひくとわかるんだけど「啓蒙する」とか「暗いところ照らす」という意味です。
- F:響きもかっこいいですよね。
- H:でもね…「エントラップメント」っていう映画があったでしょ。みんなあれと間違えるんだよね(笑)。郵便物とか「エントラップメント」って書いてあんの(笑)。一同爆笑…(笑)
- F:TRACKはエンライトメントで作られているんですよね?
- H:はい。エンライトメントを始めて半年…3ヶ月位たってから始めたのかな?今まで自分の作品集や小さい本をたくさん出して売ってたんだけど、フリーにする事や版権を大きくする事で、エンライトメントのやりたい事を自由に表現できる、という事で始めたんです。それまで僕は個展を年に2回位やってたんだけど、個展というものに疑問を感じ始めていて。ギャラリーだと1週間とか期間が短いでしょ。来てもらう人も限られちゃうし、本当に見てもらいたい人はなかなか忙しくて来れなかったりするし・・・そういう事もあって、個展の代わりに8ページの紙面で自分の作品を発表をしようと、そんな所から始まったんです。
- F:TRACKのコンセプトは個展なのですね。
- H:そう。紙の上での個展のような考え方ですね。来てもらうんじゃなくて、こっちから送れるし、本屋に置いてあってそれをみんなが持って帰る、そうすると持って帰った家でまた違う人が見たり…明らかに見る人の数は増えてくる。もう一つ大きいのは海外に送れるっていう事ですね。半分ぐらいは海外に送っちゃうから。
- F:半分?というと1500部・・・だから日本に無いんですね。
- H:ニューヨーク、ロンドン、香港、パリ、オーストラリア、ドイツに送ってます。その中にパリのコレットっていうセレクトショップがあるんですけど、TRACKを見たオーナーが「うちで展覧会をやりませんか?」と言ってくれて・・・それで1月に展覧会をやってきたんです。

- F:コレットでの個展はどんな感じでしたか?
- H:大成功でした。スタッフみんなで行ってね、社員旅行も兼ねてたんだけど(笑)。コレットって、洋服・本・雑貨とか何でも売ってるところで、みんなセンスの良いものなんです。その中にアーティストスペースのような展示できるスペースがあるんです。日本人だとホンマタカシさんが1回展示やってますね。そこにTRACKの過去のものやコレット用に新しく作った作品を展示してきました。コレットは世界中の人が立ち寄るようで、個展が終ってから色んな所からメールが来ました。「パリで見たんだけど、あのTRACKは手に入らないの?」とか「うちの雑誌で紹介したい」とか。
- F:TRACKのサイズ(297mm×372mm)は、少し特殊だと思うのですが、コンセプトと何か関係があるんですか?
- H:そうですね。自分の中ではもう少し小さめを考えてたんだけど、一緒にやってるGRAPHという印刷屋さんが「どうせ作るなら、もっと大きく作りましょうよ」って言ってくれて、あそこまで大きくなりました。あとは紙取りの関係で効率良かったから…って感じかな。
- F:紙質は毎回同じですか?
- H:たまに違う時がありますけど、大体は一緒ですね。普通の紙で特殊な紙ではないんだけど、両面にベットリとニスを塗ることで、ちょっと変わった質感を出しています。
- F:入手するのがなかなか大変なのですが.…。
- H:今後はシステムを変えようと、ちょっとお休みしています。もうすぐ再開するから、そうすればまた本屋とか色んなところに出ると思うよ。

- F:ホンダとTBCのお仕事はTRACKがきっかけで始まったという事ですが?
- H:うん。ホンダは、ADの青木克憲くんがTRACK3号目のクルマのイラストを見て、すぐ電話をかけてきて「今ちょうどプレゼンをしようとしてるとこで、こういうイメージでやりたいから、他の仕事がきても受けないで欲しい。」ってキープされて…。プレゼンでは3案ぐらい出したみたいで、もう少し写真ぽい案や、わりかし普通の案があったので、まさかあのイラストのが決まるとは思わなかったんだけど、ホンダ側が「これで行きましょう」って事になって…。決まってから結果がでた感じ。TBCの方は、博報堂のADの佐藤可士和くんが、TRACK1号目のナイキを見て「こういうので顔ができないか?」っていう話をされて。その時にちょうど7号目で顔を作っていたので「実はもう顔を作りはじめてる」、「じゃ、ちょっとそれを見せて」、「これはおもしろい!」って事で決まりました。
- F:キムタクの顔はすごい話題になりましたよね。
- H:うん、そうだね。全部で5本作ってるんだけど、1本目だけはハリウッドで、あと4本はこっちで作りました。今、ちょうど4本目を作ってるとこです。
- F:あの動き(カクカクッ)が不思議ですよね。
- H:うん。ナゾだよね(笑)。1本目が顔のアップでしょ。2本目が宇宙船みたいなので、3本目がリムジン、今作ってるのが書斎なのね。本棚のあるようなリッチな書斎。
- F:あ、書斎のものは絵を先に見ました。
- H:それのCM版で、最後はボート。それが4月ぐらいに出ます。
- F:それは全部、TRACKから始まったものなのですよね。
- H:そうですね。理想的と言えば理想的で、自分達のやりたい事をやって、それが仕事に繋がっていくっていう感じ。それをADの人が企業にプレゼンしてくれて、仕事がまわっていくという。やっぱりイラストレーターって受け身じゃないですか。電話がかかって来てから絵を描くみたいな。そうじゃなくって、僕はもっと攻撃的に行きたいなっていうのと、自分をアピールしていきたいなって…。個展もそうだしミニブックもそうだし、何か仕事が来る前に僕は自分から何をやりたい、何ができますっていうのをアピールしてプレゼンして行きたい。ただまぁ…本にしても何にしてもお金はかかるけど、それは先攻投資みたいなものだし。そこを惜しんじゃうと、電話かかってくるの待つ事になるし。最初にお金はかかるけど、それで仕事が来れば取りかえせる訳じゃない?そこをどういう価値観で判断するか、なんでしょうね。
- F:フリーペーパー本来の意味って何だろう?って考えさせられます…。TRACKのようにフリーペーパーの役割がきっちり果たされているのは凄いと思います。
- H:僕の場合GRAPHっていう理解のある会社がちょうどそばに居たから、それもすごくラッキーだったと思うよ。
- F:GRAPHさんとはどういう出会いだったのですか?
- H:一番最初に出した小さな写真集があるんだけど、自分でカラーコピーで作ってたのね。セブンイレブンとか行って。で、それがすごく気に入って、カラーコピーだけで終らせるのがつまらなくなって、オフセット印刷で大量に作りたいって思ったんでGRAPHに相談したら、色んなアイデアを出してくれたんです。オフセットだけどカラーコピーのように印刷してくれたり。こんなに色んなことやってくれる印刷屋さんがあるんだと思って…そこからですね。それでミニブックとか色々作りはじめて、やってくうちに「実はこんなアイデアがあるんだけど」ってフリーペーパーのアイデアを出したら「面白いからやりましょう!」って事でTRACKが始まったんです。

- F:TRACKを作っていて、良かった事、悪かった事はありましたか?
- H:悪かった事は…ないかな。良かった事はたくさんあったけどね。悪かった事っていうんじゃないけど、やっぱりそれなりに時間かかるし、大変は大変ですよね。
- F:話しは変わりますが、最近熱中している事は何ですか?
- H:なんだろうなぁ?何ですかねぇ…。絵を描く事が熱中してるけどね。趣味ってないからね。
- F:そうなんですか?もうヒマさえあれば絵を?
- H:うん。ほら、趣味を作っちゃうと、絵を描く時間をとられるから…。趣味は絵を描く事だからね。もちろん仕事で頼まれた絵とは関係なく自分で描く絵もあるから、普通の人の倍は時間がかかるよね。
- F:ゲームなどは作りたいと思いますか?
- H:全然思わない。作ってる友人はいるけど、2年とか3年かかって作ってるから、ああいうの見てると僕はできないなぁって思う。僕せっかちだから、すぐ形にしたいタイプなんだよね。テレビゲームとか見て面白そうだなって思うんだけど、時間かかるじゃない。やらないけどすごい興味はあります。
- F:本日はお忙しい中、どうもありがとうございました!
2000.3.8 エンライトメントにて
プロフィール
ENLIGHTENMENT(エンライトメント)ヒロ杉山。1997年にアート集団「エンライトメント」を設立。木村拓哉のCGイラストレーションで話題となったTBC(東京ビューティーセンター)、ホンダHRVなどのコマーシャルで一躍注目を集める。 枠にとらわれない発想やセンスのもと、常に新鮮な表現を生み出すことで、広告、雑誌、音楽関連など多方面で活動している。
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